【モスクワ通信】セブンシスターズ(下)〜幻のソヴィエト宮殿に挑んだル・コルビュジエと現代のスターリン建築!?〜

2021-07-13

ロシア文化フェスティバルblogより)

【ホテル「ウクライナ」 現在:ラディソン・ロイヤル・ホテル・モスクワ】

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現在はラディソン・ロイヤル・ホテル・モスクワという名称になっていますが、天井画や彫刻などロビーのインテリアは今も変わらずウクライナの民族的なテーマでまとめられています。ロビーホールの奥へまっすぐ進むと、モスクワのジオラマを見ることが出来ます。

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△オーディオガイドつき!なんと、スターリン建築のなかでちいさなスターリン建築を見ることができるなんて!

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△聖ワシーリー聖堂と赤の広場。昼から夜へ・・・だんだんと明るさも変化していきます。

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△赤の広場の横には、今はなきロシアホテル!フルシチョフの命令で1964年から1968年にかけて建設され、1993年までは世界最大の、その後もしばらくはヨーロッパ最大のホテルだったそうです。2006年に営業停止したため、残念ながら私は見たことがありませんが、読者の皆様のなかにはきっと泊まったことのあるかたもいらっしゃるのではないでしょうか!

なお、この地区はザリャージエ(Зарядье)と呼ばれ、モスクワの城壁内にある古くからの市街地でした。今は再開発で人気観光地の公園となり、博物館やコンサートホール、レストランなど見どころが増えています。

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△ホテル前の広場には、ウクライナの国民的詩人・画家として知られるタラス・シェフチェンコの銅像も見ることができます。また、モスクワっ子たちに人気の話題のレストランが並んでおり、モスクワ川を遊覧するクルーズ船の発着点にもなっています。

 

【旧鉄道省?ロシア連邦運輸省オフィス棟&住居棟】

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△ここにはかつて詩人ミハイル・レールモントフの生家があったため、中庭側から建物内へ入ると、レールモントフの名前のついたレストランもあります。

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△建物の外壁にもレールモントフの生家があったことが記されています。表通りの1階にはレストランのヤキトリヤが入っており、地下鉄Красные Ворота駅ともつながっています。

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△目の前のレールモントフ広場には、レールモントフ像が建っています。1829〜1832年にモスクワ大学に通っていたレールモントフが暮らしていたアルバーツカヤにある家は、現在レールモントフの家博物館として公開されています。

 

【文化人アパート(クドリンスカヤ広場の高層アパート)】

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△子どもを抱く母親やチェロを奏でる男性など、周囲は彫刻で飾られています。

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△壁には至る所に記念プレートが掲げられ、この建物に住んだ著名人を知ることが出来ます。日本語で『赤い石』と書かれたレストランも入っていました。

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△建物の裏手側には、今注目のロシア人パティシエОлег Ильин(オレグ・イリイン)のお店がひっそりと店を構えています。

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△パティシエの名前の頭文字ОИを合わせたブランドロゴが目印!今日は“日本の桜”という名前が付けられたケーキにしてみました。派手なピンク色のコーティングはちょっと勇気がいりますが、なかにはサクランボのパスチラ入り。毎日17〜19時まではアフタヌーンティーもあるようです。ロシア注目のパティシエ、オレグ・イリインは1980年モスクワ生まれ。YouTubeチャンネルでは愛娘のヴァリャちゃんとお菓子作りをする “Папа поМожет”も運営しています。家族で楽しめるようにという願いも込めて、メニューにはソ連時代の懐かしい伝統的なケーキも大切にしているそうです。

Олег Ильин(オレグ・イリイン)http://sweetstore.ru

 

【幻のソヴィエト宮殿】

さてセブンシスターズの中心、現在の救世主キリスト大聖堂(ロシア正教の総本山)がある場所には、ソヴィエト大宮殿が建てられる予定でした。1931年、イズヴェスチヤ新聞にソヴィエト大宮殿の設計コンペティション要綱が掲載され、同年秋には国内外から約160作品が集まり、プーシキン美術館に展示されました。国をあげての大計画は、時間をかけて何度も選考が行われ、1934年の段階では約80mもの巨大なレーニン像の下に台座部分をイメージした宮殿を作る案が候補になっていました。スターリン様式の高層ビルを特徴とするスターリンの都市計画はアメリカNYのマンハッタンの摩天楼を意識していたとも言われていますが、1886年に完成した自由の女神像が約46m(台座部分を含めると約93m)ですから、このレーニン 像とソヴィエト宮殿の圧巻のスケールがお分かりいただけると思います。

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△Wikipediaより

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△しかし、第二次世界大戦によって計画が中断されてしまいます。建設予定地は、ソヴィエト宮殿建設のためにもともとの大聖堂が破壊されてしまいましたが、ソヴィエト時代には屋外プール『モスクワ』が建設され、モスクワっ子たちのお気に入りの場所になっていました。(写真はWikipediaより)

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△そして2000年に、救世主キリスト大聖堂はかつての形に完全に復元されました。(関連ブログ→モスクワ通信『ロシア正教のクリスマス礼拝とニコライ・ヤポンスキーのイコン』

さて、この謎に包まれた幻のソヴィエト宮殿のコンペ応募者のなかにはなんと、20世紀を代表する建築家のひとり、ル・コルビュジエの作品もあったのだそうです。日本で唯一のル・コルビュジエによる建築作品といえば世界遺産にも登録されている「国立西洋美術館」ですが、実はロシアにもル・コルビュジエによる建築作品があります。

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△建物の前にはル・コルビュジエの銅像。世界には他にも銅像がたくさんあるかもしれませんが、名前がキリル文字で記されているのは(Ле Корбюзье)きっとここモスクワだけ!?

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△かつてはЦентросоюз(旧ソ連消費者協同組合中央同盟)の建物で、現在はФедеральная Служба по Финансовому Мониторингу(ロシア連邦金融監督庁)が入っています。

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【スターリン建築・・・風?】

さて、モスクワ市内には、スターリン建築をイメージして目を引く現代的なビルも。

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△地下鉄マヤコフスカヤ駅の近くにあるオルジェイヌィ・ビジネスセンター(БЦ Оружейный)には1階にロシアの銀行ズべルバンク«Сбербанк» が入っています。

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△夜にはてっぺんの先頭部分が銀行のコーポレートカラーの緑にライトアップされているのですが、祝日には・・・ロシア国旗になることも。

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△建物1階のシャンデリアがまたユニークで、建物を逆さまにしたような形のシャンデリアになっていました。

また、同じくスターリン様式で建築され2006年に完成した超高層高級マンション「トライアンフ・パレス(Триумф-Палас)」は、セブンシスターズに次ぐ“八番目の姉妹”なんて呼ばれたりもしています。

 

【旧ソ連圏のスターリン建築】

旧ソ連圏の国々のなかにも、スターリン建築を見ることができます。たとえばラトビアの首都リガ 旧市街の南のはずれには、スターリン建築の科学アカデミーがあります。107mで21階建ての最上階は展望台になっており、リガの街を一望できます。

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△建物の前にある案内表示を見てみると、ゴーゴリ通りやツルゲーネフ通りもあるようで(プーシキン通りやロモノーソフ通りもあるのだとか)、まるでモスクワみたいですね。ほかにも、ポーランド 、チェコ、モンゴルなどにスターリン建築を見ることができます。

モスクワでは今も、歴史ある建物を大切にし、街の景観の調和を保ちながら、その一部を改装して店舗や住居として利用しています。建築物を眺めながら歩いているだけでもとても楽しいモスクワ散歩です。

 

 

参考文献

『ロシア建築案内』リシャット・ムラギルディン(TOTO出版)

 

【モスクワ通信】セブン・シスターズ(上)〜スターリン様式の超高層ビル〜

2021-07-12

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スターリン政権のソビエト連邦時代に建てられた、空を刺すような左右対象の「スターリン様式」の超高層ビル。第2次世界大戦後、1947年のモスクワ建都800周年には、偉大なる共産主義国家の模範的な首都にふさわしいモスクワになるよう計画を開始しました。結局、夢の計画のまま実現されることはなかった幻のソヴィエト大宮殿を囲むように、モスクワの7つの丘に7つの「スターリン様式」の建物が建築され、今も“セブン・シスターズ”と呼ばれています。今回のブログでは、このセブンシスターズの見どころをご紹介してから、幻のソヴィエト宮殿に挑んだあの建築家について、さらに旧ソ連圏の国にあるスターリン建築や現代のネオ・スターリン建築も追いかけてみましょう!

【ロモノーソフ名称モスクワ国立大学】

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△ロモノーソフ名称モスクワ国立大学(Московский государственный университет имени М.В.Ломоносова )はセブン・シスターズのなかでも最も高い235m。本館の尖塔の先には星のモチーフを見ることができます。

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△大学前の庭園には噴水が美しい池があり、その両脇には、ロシアが誇る学者たちの胸像が並びます。

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△ロシア最高学府であるモスクワ大学の創設にも関わり、大学にも名を冠されているロモノーソフ(Михаил Васильевич Ломоносов)。ドモジェドヴォ国際空港にもロモノーソフの名が冠されています。博学者として知られ、国民的詩人プーシキンに“ロモノーソフは偉大な人物である。彼は最初の大学を創設したが、ロモノーソフ自身が我々の最初の大学だと言ったほうが良い”(Ломоносов был великий человек. Он создал первый университет. Он, лучше сказать, сам был первым нашим университетом)と称されていました。

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△ほかにも哲学者ゲルツェン(Александр Иванович Герцен)、化学者メンデレーエフ(Дмитрий Иванович Менделеев )、“パヴロフの犬”の実験でも知られる生理学者パヴロフ(Иван Петрович Павлов)。(その他、自然科学者ティミリャゼフ、ロシア航空の父とも称される物理学者ジュコフスキー、生物学者ミチュリン、ラジオ(無線通信)の父とも称されている物理学者ポポフ、地質学者ドクチャエフ、革命家で文芸批評家チェルヌィシェフスキー、数学者ロバチェフスキー、数学者チェブィショフの像も見られます。)

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△モスクワを一望できる雀が丘(旧称レーニン丘)の展望台へと続く広場。ここでは2018年、モスクワで初開催されたワールドカップのFAN FESTが設置され、大画面を前にみんなで応援しました。

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公式サイト:https://www.msu.ru

住所: ул. Ленинские Горы, 1, Москва

 

【芸術家アパート(コテーリニスカヤ河岸通りの高層アパート】

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△バレリーナのガリーナ・ウラノワをはじめ、たくさんの偉人たちがここに住んでいたことを記す記念碑を見ることが出来ます。現在も住居として使用されており、セキュリティのために居住者以外は自由に出入りできない場所も多いため、なかにあるガリーナ・ウラノワの部屋博物館はスターリン建築の内部や部屋を実際に見ることができる貴重な博物館でもあります。(【モスクワの墓地】まるで彫刻の森美術館!著名人の眠るノヴォデヴィチ墓地

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△スターリン建築の建物とつづきの棟にある映画館イリュージオン Кинотеатр « Иллюзион»。1966年春に開館。話題作を多数公開する他の映画館とは一線を画し、豊富なアーカイヴから良質な映画を提供するプログラムも魅力的で、入場無料の映画も多いため映画通を喜ばせています。

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△ロビーにあるカフェは、映画を観賞しない人でも自由に利用できます。

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△(館内写真は公式サイトより)

Кинотеатр « Иллюзион» http://illuzion-cinema.ru/schedule/

住所:Котельническая наб., 1/15

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△モスクワ川とヤウザ川の合流点にあるため、きらめく水面を滑るように目の前をたくさんのクルーズ船が行き交います。(モスクワ川のランチ&ディナークルーズ Radisson Royal Moscow Flotilla

 

【ホテル「レニングラード」 現在:ヒルトン・モスクワ・レニングラーツカヤ・ホテル】

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△星座の大時計と哀しい伝説のスユンビケ塔がエキゾチックなカザン駅、北の都へ向かうレニングラード駅、そしてシベリア鉄道の終点で民話の世界を思わせるロマンチックな外観のヤロスラヴリ駅の3つの鉄道駅が集まっているコムソモール広場に面して立っています。そのせいでしょうか、レニングラード・ホテルのロビーへ足を踏み入れると、この3つの駅のイメージがここでひとつに溶け合っているように感じます。

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△コロナ禍では医療従事者の皆様へ部屋を提供していました。

 

【ロシア外務省】

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△一部分修復中なので、白い石造りの建物はまるで頭に白い帽子をかぶっているよう

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△2019年、外務省と大通りを挟んで向かい合うようにスモレンスカヤ広場に新しい銅像が設置されました。外務大臣としても手腕を振るったエヴゲニー・プリマコフ(Евгений Максимович Примаков)像です。ノヴォデヴィチ墓地ではお墓も見ることができます。(☆【モスクワの墓地】まるで彫刻の森美術館!著名人の眠るノヴォデヴィチ墓地

→(下)へつづく 

【モスクワ通信】120年の歴史に幕・・・食料品店エリセーエフスキー

2021-05-30

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2021年4月、ロシアの観光名所のひとつとしても人気のあるモスクワの食料品店エリセーエフスキー(Елисеевский)が、その長い歴史に幕を閉じることになったという衝撃的なニュースが流れました。帝政ロシア時代にタイムスリップしたかのような豪華絢爛な店内に初めて足を踏み入れたときの衝撃は、今も忘れられません。

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△モスクワの中心クレムリンから続くトヴェルスカヤ通りに面する一等地に店を構えていました。この建物は18世紀末に建築家マトヴェイ・カザコフ(Матвей Казаков)によってエカテリーナ・コズィツカヤ(Екатерина Козицкая)の邸宅として設計されました(トヴェルスカヤ大通りとコズィツキー横町の角に建っています)。クラシックな街並みに馴染んで目立つ看板がないため外観からは少し入口が分かりにくいのですが、中央の扉を押して建物内に入り、右手側が食料品店エリセーエフスキー、左手側がソ連の雰囲気を味わえるファミリーレストランのВареничная №1 (ヴァレニチナヤ No.1)になっています。

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△邸宅はその後、ジナイダ・ヴォルコンスカヤ(Зинаида Волконская)の芸術サロンとなり、なんとあの詩人プーシキンやチュッチェフ、文豪ツルゲーネフなどもここを訪れていたのだとか・・・!たくさんの文化人が集い、前菜をつまみながらお酒を酌み交わし、優雅に音楽にあわせて踊ったり詩の朗読を楽しんだりしたのかもしれません。1901年に食料品店が開業してからも、“詩人マヤコフスキーがここでサラミを買った”なんていうエピソードもたくさん残されていて、想像するだけでワクワクしてきます。

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△中央の扉をくぐって建物内へ

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△食料品店の入口にはお店の創始者でオーナーだった大富豪グリゴリー・エリセーエフ(Григорий Григорьевич Елисеев)の胸像が飾られています。1864年サンクトペテルブルクの裕福な商人の家に生まれたグリゴリーは、外国でワイン醸造について学んだ後にロシアに戻り、祖父のピョートルが1813年にサンクトペテルブルクで開いた小さなお店から始まった家業を継ぎます。その後「エリセーエフ兄弟商会」が設立され、事業がさらに拡大していきました。1898年にモスクワの現在の建物がある場所を購入し、改築して1901年にエリセーエフの名を冠したブランドストアである高級食料品店をオープンしました。

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△グリゴリーと最初の妻マリヤは、息子7人と娘1人に恵まれました。3男のセルゲイ・エリセーエフ(Сергей Григорьевич Елисеев)は日本研究者・東洋学者として知られており、当時の東京帝国大学留学中には夏目漱石を師と仰いでいたそうです。1914年に妻マリヤを失った後、19歳年下の2人目の妻ヴェラと再婚。1920年にパリへ亡命し、そこで生涯を終えました。

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△では、いよいよ店内へ。葡萄の房ように垂れ下がる見事なクリスタルのシャンデリア、ステンドグラスに優美な柱・・・重厚でゴージャスな内装は息を飲むような美しさで目に入るものすべてに圧倒されてしまいます。創業当時から変わらぬ雰囲気なのだそう・・・!

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△宮殿のような店内と不思議なコントラストを醸し出しながら、野菜&果物コーナー、精肉や魚類コーナー、冷凍食品やお惣菜・・・とエリアごとに食料品が並びます。

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△ソ連時代には国営となりГастроном № 1(ガストロノム No.1 )と店名が変更されたこともありましたが、食糧難の時代にもずっと変わらぬ姿で営業を続け、モスクワ市民の憧れの高級食料品店としての地位を誇ってきました。当時ロシアでは珍しかったオリーブオイルやフランスのトリュフ、新鮮な牡蠣やエキゾチックなフルーツ、世界中から集められた豊富な種類のコーヒーや紅茶、サフランやシナモン、ナツメグなどのスパイス類などがいち早く紹介され、ブームの火付け役としてここから人気が広がっていった食品も多いのだそうです。新生ロシアになり、お店は再びエリセーエフスキーの名前を取り戻し、2004年の大規模なリニューアルによってグリゴリー・エリセーエフのスケッチなど貴重な資料をもとに美しく復元されました。

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△場所柄いつも観光客でいっぱいで、帝政時代にタイムスリップした気分で店内を見学してから、パッケージが美しいチョコレートや紅茶など記念にお土産を購入するツアーも多いようです。ずらりと並ぶ美しい野菜や果物、お肉、冷凍食品などロシアの台所事情を覗けるのは楽しいですし、気になるお惣菜をあれこれ購入して試してみることもできます。初めてのロシア旅行の際に、本で読んでからずっと興味を持っていたロシア料理“煮こごり”や“毛皮を着たニシンのサラダ”に出逢い感動したことを思い出します。

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△ワイン売り場へ向かう入り口の上にも、エリセーエフの肖像画が飾られていました。もともとはシェレメチェフ伯爵の農奴で庭師だった祖父のピョートル・エリセーエフスキーは、クリスマスの夜に新鮮なラズベリーを届け、その心遣いに感謝した伯爵から自由を与えられて、商人としての第一歩を踏み出しました。食のサプライズで人を喜ばせたいという想いはピョートルから子孫へ、かつて見たことのないような食料品店を作りたいと考えていたグリゴリーに、そして現在まで受け継がれています。

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△通路の壁面はミニギャラリーになっていて、貴重な写真や絵画でお店の歴史の一部を知ることができます。

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△こちらがワイン売り場です。Eliseev’s Store and Cellars of Russian and ForeignWines( Магазин Елисеева и погреба русских и иностранных вин)として創業時からロシア国内外のワインを扱っていたエリセーエフスキーだけに、ワインやアルコール類がずらり。

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△エリセーエフはディスプレイにもこだわりを持っていたと言われています。

エリセーエフ兄弟商会は、1903年にはサンクトペテルブルクのネフスキー大通りにも店を開き、エリセーエフの食料品店は唯一無二の存在感でロシア二大都市に君臨してきました。モスクワ店の改装も手掛けた建築家ガヴリエル・バラノフスキー (Гавриил Васильевич Барановский)が建てたサンクトペテルブルク店は、アール・ヌーヴォー様式(モデルン様式)の美しい建物で、20世紀の主要な価値を象徴する「産業」「貿易」「芸術」「科学」の彫刻で彩られています。2012年には、100年以上前の貴重な写真やスケッチをもとに建物内を詳細を再現して、洗練されたレストランやお店、2階には劇場も備えたフードホールとして再オープンを果たしました。

エリセーエフの店の名前は、ロシアを代表する名作のなかにも見ることができます。たとえば、トルストイの『アンナ・カレーニナ』には「(中巻21章)新しい牡蠣の入荷したエリセーエフの店からたった今やってきたオブロンスキーは・・・」(新潮文庫 木村浩訳)という場面があり、食通のオブロンスキーを描写しています。また、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のなかでも「(1巻 第1部 第2編 8章)ファクトリーのワインにエリセーエフ兄弟商会の蜂蜜酒ですか、こりゃたいしたもんだ、神父さん!・・・」(光文社 亀山郁夫訳)というように、ステータスの証としてこの食料品店の名前が登場しています。

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△モスクワの店舗の前の石畳に埋め込まれたマーク

2021年4月、モスクワ店の突然の閉店が報じられてから、どんなときも豊かに潤っていた店内の棚からあっという間に商品が消えてしまい、がらんとした店内にはその美しい姿を永遠の記憶に留めようとカメラを手に訪れる人が後を立ちませんでした。惜しまれつつその扉を閉じた食料品店エリセエフスキーは現在モスクワ市によって歴史的建築物として保存されていますが、この場所が再び息を吹き返したくさんの美味しい食料品で満たされる日は来るのでしょうか・・・!

 

«Елисеевский»(モスクワ) Address: Tverskaya St, 14, Moscow

 «Магазин купцов Елисеевых»(サンクトペテルブルク) Address: Nevskiy pr, 56, Saint Petersburg

 

参考文献

«Магазин купцов Елисеевых» https://www.kupetzeliseevs.ru/

Елисеевский магазин – место, где живет дух старой Москвы