【ロシアナの本棚】犬が星見た

2020-05-30

「この人の作品はすべて読みたい!」
私にとってそんな作家のひとりである武田百合子さん。

どこから読み始めて、どこを読んで、
どこまで読みすすめても大好きな代表作「富士日記」はもちろんですが、
ロシアナ的にはソ連旅行記「犬が星みたーロシア旅行ー」(中央公論社 中公文庫・カバー 鈴木康司)もオススメです。

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横浜から船でナホトカへ、鉄道でハバロフスクへ、空路でイルクーツク、
ウズベキスタン、グルジア・・・
諸都市を経てヤルタ、レニングラード、そしてモスクワへという20日間。
初めての海外旅行で、愛する旦那さまである
作家の武田泰淳さんとの最初で最後の旅行。

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日常生活のなかで、目に見えるもの、見えないものたちを、
かけがえのない大切なものにしてくれます。

なんといっても素敵な「犬が星見た」というタイトルの秘密は
あとがきの中で出てきます。 

もうページも黄ばんで表紙もぼろぼろですがそれもまた愛おしい1冊です。

【ロシアナの本棚】【ロシアナ映画館】本格ソヴィエト派?現代イギリス派?それとも王道ハリウッド派?『戦争と平和(Война и мир)』

2020-05-22

ここしばらく、レフ・トルストイの長編小説『戦争と平和(Война и мир)』の世界に飛び込んでいます。世界で最も優れた小説として挙げられることも多く、また最後にやっぱりこの1冊と愛読書にしているロシア通の方も多い作品です。

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映画版もまた素晴らしく、何度かブログでもご紹介したロシアの映画配信サイトivi.ruでは無料でご覧いただけます。(【モスクワの新型コロナウイルス対策】あなたの家が映画館に!オンライン映画ならivi.ru)(戦争と平和(Война и мир)はこちら)

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△『戦争と平和(Война и мир)』1965年ソ連映画版 セルゲイ・ボンダルチュク(Сергей Бондарчук)監督。ロシアでなければ感じられない風景や味わえない生活の様子、醸し出せないロシア人の雰囲気や表情など、何をとってもやはり“本物”で見応えがありました。今も変わらぬクレムリンや聖堂の前を馬車が走り、今は美術館や博物館として公開されている宮殿の中で晩餐会やダンスパーティが催され、展望台になっている雀が丘から馬に乗ったナポレオンがモスクワを眼下に見る・・・モスクワやペテルブルクのかつての情景が丁寧に再現されていてどのシーンも目が離せません。撮影のためにロケットも飛ばしたという伝説が残っていますが、ソ連が国を挙げて取り組んだ戦争シーンも大規模で圧倒されます。監督・脚本・主演のボンダルチュク監督の並々ならぬ情熱も感じましたし、ナターシャ役のリュドミラ・サヴェリエワ(Людмила Савельева)にも終始うっとりでした。この作品からソ連の銀幕のヒロインとなるサヴェリエワは、まさにナターシャそのもの・・・!

国と国の間の戦争はもちろん、人と人の間でも、複雑にからみあった関係性が赦し合うことで心のなかに平和を導くシーンが繰り返し何度も描かれているのが心に残りました。

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△『戦争と平和 War&Peace』2016年イギリスBBCドラマ版。オンラインでは、ivi.ruやAmazon videoなどで有料でご覧いただけます。NHKでも放映されて好評を博しました。イギリスBBCが2年の歳月をかけて壮大なスケールでドラマ化した自信作とあって、引き込まれました。ドラマなので映像やモチーフはより印象的に描かれ、全編にわたる戦争の目を背けたくなるような辛いシーンも迫力とスピードのある展開でしっかり表現されています。登場人物の多さもよく指摘される『戦争と平和』ですが、確かな演技力のある俳優たちがその個性的な登場人物たちに息を吹き込み魅了します。喜怒哀楽を抱えながら生き生きと人生を歩んでいく複雑に絡み合った人間関係の中を、まるで一筋の清流のように美しいラブストーリーが紡がれていきます。主人公ピエールはトルストイ自身が投影されていると言われていますが、一見して全く似ていないピエール役のポール・ダノの姿にラストシーンでトルストイが重なってみえました。

(※英BBCでは、1972年にも日本未公開のTVドラマシリーズが制作されており、アンソニー・ホプキンスが主演しているそうです。)

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△『戦争と平和』1956年 アメリカ・イタリア合作映画 King Vidor (Кинг Видор)監督

主演はオードリー・ヘプパーン(Одри Хепбёрн)!ハリウッドの人気女優として輝かしい活躍見せていたヘプバーンにとって、初のカラー・ワイドスクリーン作品への出演で、英国アカデミー賞と米国ゴールデングローブ賞にノミネートしました。1954年の舞台共演後に結婚した夫のメル・ファーラー(Мел Феррер)との競演ということも大きな話題になり、ヘプバーン本人にとっても特別な作品と紹介されていました。ナターシャとピエール、アンドレイの3人の物語をトルストイの舞台設定や台詞のエッセンスをもとにして、ハリウッドらしいエンターテインメント作品に仕上がっています。オードリーの美しさはもちろん、ハリウッドが『戦争と平和』をプロデュースするとこうなるのね・・・!という楽しみ方もできます。

ソ連映画版と英BBCドラマ版ではそれぞれ演出の違いもあり、心に残る台詞も多くて、原作ではどのように書かれているのか、いよいよ改めてまた本も読まなければと思っております。

長引くステイホームを乗り切るコツのひとつは、いつもより時間をかけてお料理したり、夕立の後の虹を発見したりと、生活のなかにちいさな幸せを見つけること。そしてもうひとつは、もしかしたら逆に、偉大すぎる芸術作品のなかに飛び込んでしまうこと、かもしれません。

自宅での巣ごもり生活を思いだすたびに、『戦争と平和』の感動を思い出せたらなと思っています。

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【ロシアナの本棚】不思議の国ルイス・キャロルのロシア旅行記

2020-04-27

『不思議の国のアリス』(ロシア語:Алиса в Стране чудес )は、絵本で、童話で、そしてディズニーアニメや映画でも、世界中で親しまれてきた1冊です。では、その著者ルイス・キャロルが、『不思議の国のアリス』を出版した約1年半後の1867年にロシアを旅していたことはほとんど知られていないのではないでしょうか・・・!

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『不思議の国ルイス・キャロルのロシア旅行記』(笠井勝子・訳 開文社出版)

イギリスから出たことのなかったルイス・キャロルにとって、35歳で初めてパスポートをとり初めて旅することになった外国が、そして結果として生涯最初で最後の海外旅行になった場所がロシアだったなんて!まさに不思議の国のキャロル、というところでしょうか。

ロシア正教大主教に面会する友人のお供で旅したので、教会や聖堂や修道院も訪れ、宮殿や美術館なども観光も楽しみ、田舎では農家のなかを覗いたり、結婚式や祭りなどもみて、その様子を日記形式の旅行記にまとめています。さまざまな出会いもあり、なかでもペテルブルクでは日露和親条約を結んだプチャーチンにエルミタージュ美術館を案内してもらっています。

7月12日に出発し、ロンドン〜ドーバー〜ブリュッセル〜ケルン〜ベルリン(シャーロッテンブルグ、ポツダム、ダンツィッヒ、ケーニヒスベルク〜列車で28時間30分かけて7月27日にサンクト・ペテルブルク へ到着。ロンドンと比べて通りの広さに驚き、イサク聖堂やカザン聖堂、ネフスキー大通り、ピョートル大帝像、エルミタージュ、アレクサンドル・ネフスキー修道院など、地図を購入して町を歩き回り、辞書を買って馬車の御者とロシア語で交渉したり、時にはイラストも交えて綴っています。

8月2日に寝台列車でモスクワへ、翌朝10時到着。雀ヶ丘からモスクワ 川の流れる美しい町を一望し、ナポレオンがこの丘から初めてモスクワを目にした時のことに思いを馳せます。

ニジニ・ノヴゴロドやセルギエフ・ポサード、新エルサレムへも足を伸ばし、伝統的なキャベツ・スープのシチーやピロシキ、カツレツなど味わったメニューも細かく記載して感想を記したり、ナナカマドの実で作るビターワインなど珍しいものを試してみたり、ロシアのアイスクリームの美味しさに舌鼓をうったり!

その後、再びペテルブルク〜ワルシャワ〜ブレスロー、ドレスデン、ライプツィヒ、ギーセン、エムズ、ビンゲン〜パリ〜カレー〜ドーバー・・・そして9月14日未明に懐かしのイギリスに戻ります。旅行の数年後には、ロシア語の数遊びを題材に作った詩も残しています。

少女時代から大好きだった『不思議の国のアリス』&『鏡の国のアリス』。好奇心いっぱいのアリスを自分と重ねてまだ見ぬ広い世界と想像の世界との間を彷徨っていました。そして、自らもまたキャロルのように不思議いっぱいのロシアを訪れ、“不思議の国のユリ”になるなんて。運命を感じる特別な1冊です。