【ロシアナの本棚】『みかづき』(森絵都・著 集英社文庫)

  • URLをコピーしました!

「きっかけは、やはり、スホムリンスキーだった。」

用務員室の守り神。天性の教師。女の誘惑には弱い助平吾郎。その人生初の師は、ソビエトでの35年にわたる教育生活から独自の教育理念を生み出し、それを多数の著作に残した、ウクライナ出身の教育者ワシリー・アレクサンドロヴィチ・スホムリンスキーだった。

△『みかづき』森 絵都・著 集英社文庫

「吾郎さん、これ、読んでみない?」邦訳されたうちの一冊を金輪書房の一枝から薦められ、吾郎が初めて手にとったのは、昭和46年の夏だ。『教育の仕事ーまごころを子どもたちに捧げる』最初の一冊からすっかりスホムリンスキーに心酔した。そこには吾郎が理想とする教育の実践があり、おおげさに言うならば、彼は生まれてはじめて人生の師を得たかのような魂の高ぶりを覚えたのだった。

〈子どもは生まれつき知識欲の旺盛な探検家であり、世界の発見者である〉・・・黒板に板書したくなるような数々の格言に触れるにつけ、次第に、吾郎はそれを他の皆にも知ってほしくなった。教育界でこそ名の通っているスホムリンスキーだが、一般的にはまだまだ知られていない。・・・ウォッカをソーダ割りにするようなひと工夫をほどこすことによって、その教育理念に親和性をもたらすことができるのではないか。(本文より部分抜粋)

はじめてこの本を手にやりとりする吾郎さんと一枝さんの古本屋さんでのシーンがなんともいえず素敵。ソビエトに生きた師の想いを、“ウォッカをソーダ割りにするようなひと工夫” で日本に生きる人たち伝えたいと思う吾郎さんに心から共感!『スホムリンスキーを追いかけて』は、吾郎さん版“ロシアナのロシアな話”ですね。

△スホムリンスキーは実在の人物で、著書『教育の仕事ーまごごろを子どもたちに捧げるー』は、ソ連の素晴らしい本を数多く日本に紹介してきた本郷にある素晴らしい出版社 新読書社さんの公式サイトからもご購入いただけます。

さて、ロシアとイギリスで小学校生活を過ごし、はじめて日本の小学校に通うことになった息子。戸惑うことはいっぱいあったけれど、東京の小学生の放課後が塾通いに忙しいことも驚きでした。もちろんロンドンのような日本人の多い大都市には、帰国後の中学受験に備えて学ぶことができる日本の有名学習塾はありましたが、現地校でクラスメートと同じライフスタイルを選んでいた息子にとって、当時はどこか他人事。熾烈な東京の受験戦争を同年代を取り巻く環境としてうまく理解することができない様子でした。「イギリスのイレブンプラスみたいな・・・ものだよね。それにしても、小3からとか週末の模試で週5とか習い事は全部やめちゃうとか日本のほうが圧倒的にタフだね・・・」実は青森の小中学校に通っていた私にとってもこの驚きは一緒で、「いったい東京の中学受験って・・・⁉︎」と戸惑う私に、薦めていただき読み始めたのがこの本でした。(ほかには、漫画『二月の勝者』、『下剋上受験』、『翼の翼』なども)

日本の教育の変遷をたどる塾創始者の家系の大河小説。今、子連れで海外生活を送っていらっしゃる方、お子様の小学校時代に海外と日本を行き来する方には、東京の受験戦争をイメージできる参考書にもなりそうです。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次