ロシアのワーレンキ、その歴史と進化! 後編

2025-03-17

ブログ前編では、ワーレンキ博物館のツアーに参加して、伝統的な冬のフェルトブーツ「ワーレンキ」の作り方について学び、昔ながらのスラブの生活を体験しました。後編ではワーレンキの歴史をたどりながら、進化するワーレンキを追いかけます。

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△ロシアにおけるワーレンキの生産地を示した地図。1917年以前(赤)と1917年以降(緑)で色分けされています。

ロシア革命前は、伝統的な手工業が地方都市に集中していましたが、革命後はソビエトの工業化政策の影響で、生産地が広範囲に拡大していきます。

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△「祖先のワーレンキ」コーナーでは、さまざまな貴重な昔のワーレンキが展示されていました。こちらは100年以上前の礼装用のワーレンキ。全体に美しい刺繍が施されています。タタルスタン共和国ククモルの工場から寄贈されたものです。19世紀半ばまで、ここにはワーレンキ製造で最大級のコマロフ兄弟の工場がありました。

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△第二次世界大戦中に兵士たちに支給されたワーレンキの数は1億足以上とも言われています。長く厳しい冬に、兵士たちの足を守ったこのブーツの存在が、勝利の大きな要因のひとつになったと歴史家たちは考えています。

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△第二次世界大戦では最高軍司令官代理で戦後は国防大臣を務めたゲオルギー・ジューコフのワーレンキ。

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△その後登場したブルキ(бурки)は、高品質の白いフェルトと革で作られた冬ブーツです。ソ連時代の映画などでも見かけるこの美しいブーツは、1920年代から50年代にかけて、政府の指導者や高官、軍人など当時の社会のエリート層に人気の高級な履物でした。

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△一方、農村では、ラプキ(лапки)と呼ばれる伝統的なわらじのような靴を履いていました。菩提樹や白樺などから作られていて、オヌーチ(онучи) と呼ばれる靴下のように足に巻いて保護する布と一緒に使われていました。

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△その後、ゴム製のカバーや靴底などが作られるようになりました。

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△世界の伝統的な履物を紹介するコーナーには日本のわらじも発見!ほかには、モンゴルの乗馬に適した形になっているフェルトブーツや、オランダの木靴、ハンティ・マンシースク管区のトナカイ皮のブーツなどがありました。

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△ヤロスラヴリやククモル(タタールスタン)など、国内の主要工場のワーレンキも展示されていました。

そして、伝統的な履物から進化したワーレンキの芸術的な価値が大きく見直されたのは、ロシア連邦文化省の後援で2000年に開催された展覧会「ワーレンキ」が大きなきっかけとなりました。

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△繊細な刺繍が施されたもの、色鮮やかにペイントされたもの、ファーやビーズで装飾されたものなど。

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△シンプルなワーレンキからインスピレーションを得てクリエイターたちが制作した作品が並びます。

つづいては、2009年に開催されたワーレンキのコンクール受賞作の数々。

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△日本のアーティスト高梨真澄さんから寄贈されたマトリョーシカチャーム付きのワーレンキもありました。

さて、こうして伝統的な履き物からアート作品として進化したワーレンキですが、現在のモスクワの街中では見かけないのか?というと、実はこんなお洒落なブーツになっていました。

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△1月にご紹介したロシアのショール「プラトーク」と「ワーレンキ」を組み合わせたバッグ&ブーツは、ロシアの冬のおしゃれにぴったり!値段もとってもお手頃なので、私も思わず2足購入。

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△可愛らしいデザインの子ども用も。ほかにも、スリッパなどのフェルト小物も展開されていました。

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△こちらはモスクワにあるワーレンキをテーマにしたロシア料理レストラン。季節ごとのディスプレイが楽しい入り口前の大きなワーレンキが目印。ワーレンキ型のケーキもおすすめですよ。

見て楽しい!履いて温かい!ロシアの冬を満喫するのにぴったりのワーレンキから今後も目が離せません!

ロシアの伝統的なフェルトブーツ、ワーレンキ博物館へ 前編

2025-02-17

ロシア伝統的な羊毛フェルト製ブーツ「ワーレンキ(варенки)」をご存知ですか?

極寒の冬を耐え抜くための必需品として長い歴史を持ち、マトリョーシカ人形や湯沸かし器のサモワールと同様に、しばしばロシアをイメージするアイコンのひとつにも挙げられます。

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そんなワーレンキの魅力を探るべく、モスクワにある「ロシアのワーレンキ」博物館を訪れました。

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△建物の一角が予約制のミュージアムになっており、ショップも併設されています。2001年冬のオープニングにはなんと、ワーレンキを履いた本物の熊が登場、民族舞踊グループと共にダンスを披露してメディアで話題になりました。

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△通りの角にある博物館の入り口(左)とワーレンキのお店の入り口(右)

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△ちいさなミュージアムですが、ワーレンキの歴史と魅力が詰まっています。

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△親子ツアーに参加し、ワーレンキづくりの工程について学びます。みんな興味津々!

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△1920年代の貴重なモノクロ写真で、昔のワーレンキの工場の様子を見ることもできました。この工場は、ニジニ・ノヴゴロドで1903年にミトロファン・スミルノフによって設立された「スミルノフと息子たちの蒸気フェルト履物工場」で、ソ連時代に国有化され、「ニジニ・ノヴゴロド第一国立フェルト履物工場」となりました。

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△ワーレンキの原料となるのは、良質な羊の毛のみ!一般的に、女性用のワーレンキづくりには約1,500グラム、男性用には2,000グラム以上のウールが必要とされています。

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△ワーレンキの起源については諸説ありますが、古く13世紀ごろまで遡るともいわれています。羊毛は、もともとは遊牧民の住居ゲルなどに使用されており、その後ロシア全土に広がっていきました。寒冷な気候の中で、足元を暖かく保つための実用的な履き物としてワーレンキは愛用されてきたのです。

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△選別された羊毛を梳き、不純物を取り除くための櫛など伝統的なワーレンキ造りで用いられる実際の道具を手に取り、それぞれの使い方の説明を聞きます。

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△昔ながらの製造工程で使用されるのは、フェルト化の工程の前に羊毛の絡まりを解いて、繊維を均等に並べる重要な役割を担っている機械。熟練の職人が手動でハンドルを回して作業していきます。

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△大小さまざまなローラーがあり、羊毛が次第にほぐれながらシート状に広がっていきます。ローラーの表面には、金属の細かい針やブラシが付いていて、均一に整えるのに役立ちます。「手でさわってみてもいいですよ」に子どもたちは大喜び!

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ぬるま湯を浸透させてフェルト化します。マットの上で湿った羊毛を圧縮しながら擦ったり転がしたりしていくと、羊毛の繊維同士が絡み合い、生地が収縮して、密度が高く丈夫になり、保温性にすぐれたブーツになります。このとき、適度な湿り気の調整に熟練の技が必要なのだそうです。

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△布状になったフェルトで型紙を包むようにしてワーレンキの形を成型していきます。「つま先やかかとにウールを多く使用することで、強度と柔軟性が確保されます。縫い合わせる必要がないので針も糸も必要ありません。縫い目がない分とても気密性があり丈夫で長持ちします。」

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△成形が完了した後、木型にはめたまま数日~1週間かけて自然乾燥させてさらに強度を高めます。「生地が縮んでこんなに小さくなるんですよ!そのため完成形を見越して、かなり大きく型を用意しておかなければなりません。」

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△「スラブの生活」を可愛らしく再現したコーナー。ワーレンキとともに、昔から使われている道具を体験することができます。粉を挽いてペチカ(ロシア式の暖炉)でパンを焼き、水汲みに出かけてサモワール(ロシア式の湯沸器)でお湯を沸かしお茶を飲んだり、糸を紡いで機織りをしたり・・・

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△時代が違えば、毎日こんなお手伝いが日課だったのかしら?

(左)水汲みをするための天秤棒。両側に木桶がついているのが一般的ですが、ここはワーレンキ博物館らしくワーレンキがついていました!これでもかなりの重さがあり、「実際は水の入った桶をぶらさげて家まで歩くなんて」と驚きます。

(右) 鋳鉄鍋をフォーク状の鉄の器具で持ち上げて、いかにこの時代の女性たちの家事が重労働だったかを想像してみます。「今は空っぽだけれど、このなかには熱々のキャベツスープがたっぷり入っていたの。気をつけて運ばなくちゃね!」

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△揺りかごの上の赤ちゃん人形もちいさな可愛らしいワーレンキを履いていますね。

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△ツアーの最後は、特大ワーレンキを履いて記念撮影!

羊毛の山から頑丈で温かなフェルトのブーツ「ワーレンキ」が誕生する過程や職人の技術に、ツアーに参加した親子全員が感嘆の声を上げていました。

(後編へつづく)

ロシアの伝統美「プラトーク」の魅力に迫る! 後編

2025-01-25

独特の花柄デザインと正方形の形状で知られているロシアのプラトーク。

前編では、一大産地パヴロフスキー・ポサードの工場へ。製造過程を再現したコーナーで、伝統的な木版印刷の技術やレジェンドたちの作品などの展示から、プラトークがどのように作られているかを学びました。

後編は、街のなかの「プラトークとショールの歴史博物館」へ足を伸ばしてみましょう!

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△ちなみに、プラトークは、頭や首に巻くウールやシルク製のもので、装飾用やロシア正教の教会に入るときにつけるようなもの、シャーリ(ショール)は肩や背中を覆うような大きさを指すことが多いそうです。

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△入り口にはこんな可愛らしいフォトスポットも。

博物館で学ぶプラトークの歴史

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△19世紀から現代に至るまで、さまざまなプラトークが展示され、まるでタイムトラベルをしているかのように、美しいプラトークを通して、当時の生活や時代の変遷を感じることができます。

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△ロシアでプラトークは、冬の防寒具としてだけでなく、結婚式や宗教的儀式の際の象徴的なアイテムとしても使われてきました。

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起源は諸説ありますが、17世紀に東洋から伝わり、18世紀に広まったとされています。当初は貴族や裕福な商人の間で高級なファッションアイテムとして愛用されましたが、19世紀頃になると、職人たちが手織りやプリント技術を発展させ、農村部の女性たちにも普及していきました。

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ロシア正教の教会に入る際に、女性はプラトークを頭に巻くことが一般的です。神への敬意を表し、特に礼拝のときには大切ですし、入り口に観光客用のプラトークが用意されていることもあります。現代では少なくなってしまいましたが、伝統的な結婚式の儀式の一環として、花嫁の頭をプラトークで覆ったり、あるいは結婚式の贈り物として家族や友人たちからの祝福の気持ちを示すアイテムとして、また美しい模様や鮮やかな色合いで結婚式のテーブルを飾るために使われたりもしていました。

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△1862年にモスクワ各地の工場で作られたショール。アンティークなプラトークは、その時代のファッションや技術を反映しており、訪問者の注目を集めています。

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△19世紀後半のウールのジャガード織ショールとカーペット。東洋と西洋の模様が施されたロシアの織物は19世紀初頭に登場しました。フランスのジョゼフ・マリー・ジャカルによって発明された通称ジャカード織機は、革命前のロシアで広く使われるようになっていました。

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△20世紀初頭にパヴロフスキー・ポサードで作られた、シルクのフリンジが縫い付けられたジャカード織プラトーク。18世紀前半にはモスクワ近郊の村々で絹織物の生産が広く行われており、19世紀にはモスクワ州パヴロフスキー・ポサード市が絹織物産業の中心地となり発展していきました。残念ながらこの手織り機(ジャカード)で織られた絹製品の生産は、20世紀末には廃れてしまったそうです。

興味深かったのは、模様が時代ごとの社会情勢を反映していること。帝政ロシア時代の花柄は華やかで繊細な柄が、一方、ソ連時代にはシンプルで機能的なデザインが増えたそうです。

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△社会主義の時代にはこんなデザインも。ロシア革命や第二次世界大戦時の特別なデザインは、歴史的背景を深く理解する手助けにも。

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△こちらもソ連時代、ボリショイ劇場の200周年記念にデザインされたプラトークです。

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△パヴロフスキー・ポサード170周年などこの場所にちなんだプラトーク

このように特定の歴史的出来事や祝祭に合わせて制作された限定デザインのプラトークも多数展示されています。また、地域ごとの模様の違いや、宗教的な意味合いが込められたデザインも紹介されており、プラトークが単なる装飾品ではなく、ロシアの人々の生活や精神性と深く結びついていることがわかります。

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プラトーク型の記念切手

プラトークの魅力と現代的な楽しみ方

巻き方次第で表情が変わり、1枚でファッションの主役になってくれるプラトーク。実用的なだけでなく、長い歴史が織り込まれた奥深さが、手に取った瞬間から感じられます。

最後に、プラトークのショップへ。

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△パヴロフスキー・ポサードではもちろん、モスクワにもたくさんのお店があります。「気分に合わせて新作を」「大切な方への贈り物に」とロシア人にも愛されていますし、「ロシアを訪れた記念に」とお気に入りの一枚を選ぶ観光客にも大人気です。

あれこれ手に取ってみていると・・・私が選ぶプラトークはエレーナ・ジュコワさんの作品が多いみたい。色々迷った結果、モスクワへ会いにきてくれた母とお揃いで、«Ненаглядная»(愛しい人)と名付けられた1枚を購入しました。店員さんや常連のお客様にさまざまな巻き方を教えてもらって、すっかりプラトークに夢中の私たち母娘!ロシア旅行の間、毎日お互いにお気に入りのアレンジを楽しみながら温かく過ごしました。

パヴロフスキー・ポサードを訪れて、工場や博物館プラトークが持つ歴史、そして職人たちの情熱を肌で感じて、さあ、あなたはどんな物語のプラトークを選びますか?