ニコライ大主教が湯治に訪れたこともあり、実は明治時代にロシア正教の布教が盛んだったという修善寺。修善寺ハリストス正教会は、地元の有力者でありロシア正教の信者でもあった老舗旅館・菊屋当主の発案だったといわれております。
明治期より多くの皇族や政財界の要人が宿泊し、明治末期には文豪の夏目漱石が湯治に訪れたことでも知られている湯回廊・菊屋。桂川の上に架かる渡り廊下を抜けて、明治・大正・昭和・平成・・・と時代ごとに異なる建築様式の客間や温泉が回廊でつながっています。
△胃潰瘍の療養のために、「梅の間」に宿泊した夏目漱石。(現在は「漱石の間」として宿泊可能)。またもう一部屋滞在した客室は、現在は漱石庵として公開されているそうです。漱石が実際に使用した硯や碁盤も展示されていました。
菊屋の歴史が紹介されている廊下のむこうは、八角堂。喫茶スペースになっており、サイフォンで淹れたての水だしコーヒーも頂くことができます。(下の写真の中央、金庫の上に置かれた大きなアンティークのサイフォン)
本棚には・・・年季の入った漱石全集とトルストイ!実際に漱石の本棚にも、トルストイの小説があったようです。また、ロシアの有名高級食料品店「エリセーエフ」家のセルゲイ・エリセーエフ氏は、日本へ留学し東京帝国大学国文科を卒業後に東洋学者になった人物で、留学時には漱石を中心とする文人の集まりである「木曜会」にも出入りしていたそうです。漱石からは「五月雨や 股立ち(ももだち)高く 来る(きたる)人」と署名のある『三四郎』をもらって、これを家宝にして愛読していたといわれています。
清流の流れを聴きながら、湯上がりに美味しいコーヒー片手に、ゆったりと漱石の世界へタイムスリップ・・・なんて優雅な過ごし方ですね。