前編では、モスクワの街角で出会ったユニークな自動販売機をご紹介しました。後編では、少し時間を巻き戻して、ロシアにおける自販機の歴史と進化、そして近年の日本ブームまでをまとめてみます。
帝政ロシアに現れた「チョコレート自販機」
実はその歴史は意外と古く、帝政時代の1898年にサンクトペテルブルクの「ジョルジュ・ボーマン(Жорж Борман)」菓子店が、サンクトペテルブルクのネフスキー大通り(Невский проспект)とナジェジンスカヤ通り(Надеждинская улица)の角に、ロシア初のチョコレート自販機を設置しました。現地の新聞『Петербургский листок』にも掲載され、通行人の注目を集め、大きな話題になったそうです。
ソ連時代に花開いた「Автоматторг」時代
1950年代〜1960年代には、ソ連で自販機が一気に普及しました。1960年に設立された国営の「Автоматторг(アフトマトトルグ)」は、自販機による販売を一手に担い、炭酸水やコーヒー、サンドイッチ、ビール、タバコ、雑誌など、多彩な商品を扱っていました。モスクワ市内だけで数千台規模まで広がり、ソ連市民の生活に溶け込んでいきました。
夏の風物詩だった炭酸水マシン
特に象徴的だったのが炭酸水(газированная вода)自販機。初期モデルは赤を基調として丸みのあるデザインと大きなロゴが特徴。コイン投入口とレバー、そして共用のガラスコップがセットされたスタイルだったそうです。共用グラスを洗浄して使い回すという仕組みは今ではちょっと考えられないですが、当時は当たり前で、多くの人に愛されました。
1970年代に入ると、炭酸水マシンは大量生産されるようになり、自動的にシロップを混ぜるタイプなど進化していきました。「1コペイカで炭酸水」「2コペイカでシロップ入り」という安さで、当時の夏の風物詩として人々に親しまれていました。
今でも一部の街角には復刻版が設置され、「レトロ可愛い」スポットとして観光客に人気です。
幻の香りの自販機!?
そんな自販機ブームの中でも、ひときわ異彩を放っていたのが香水自販機(одеколономат)。1950年代に西側のアイディアを参考に導入されたもので、1回の使用料は当時15コペイカで、スイッチを押すと木製のボックスから香水が噴き出す仕組みでした。 理髪店やホテル、VDNKH(全ロシア博覧センター)、ギフトショップなどにも設置されましたが、機械の故障や維持コストの高さから数は限られ、1980年代までにほぼ姿を消してしまった幻の自販機です。
△当時人気のあった香水専門店「Новая Заря(ノーヴァヤ・ザリャ)」の「Красная Москва(クラースナヤ・モスクワ)」だったそうで、1864年からのお店の看板商品として、現在も人気があります。写真はアルバート通り店にて。ロシア正教の教会屋根のような赤い香水瓶キャップが可愛いですね。
未来を先取りした無人販売店「Прогресс」
さらに1962年、モスクワ中心部チェーホフ通り3番地に開店したのが「プログレス(Прогресс)」という名の、ソ連初の完全自動化無人販売店でした。店内の壁一面にずらりと並ぶ自販機から、乳製品やジュース、缶詰、パンなど約60種類の食品を購入できる仕組みは、まるで未来を先取りしたようなショッピング体験。
ただし、商品補充や故障対応の課題も多く、70年代半ばには惜しまれつつも閉店してしまったそうです。
日本から!DyDo自販機の進出
さて、ロシアの自販機ブームに日本から参入したのが、飲料メーカーのDyDo DRINCO(ダイドードリンコ)でした。
モスクワ上陸は2013年で、当初は「日本の飲料がそのまま買える!」と話題になり、モスクワの地下歩道や空港に次々と設置されました。
ホット飲料も貴重でしたし、梅ジュースやゼリーソーダなど日本限定の飲み物がロシアで買えるのは特別な体験でした。
△購入後に「ありがとうござました〜!」と日本語で挨拶が流れるマシンは、礼儀を重んじるハイテクの国ならではだね、とロシア人の感想。
ロシアではすでに定番!フレッシュジュース自販機
△一方、最近日本でも見かけるようになった自販機といえば、目の前で絞ってくれるフレッシュジュースの自動販売機。ロシアでは、レストランなどでジュースを注文すると、「フレッシュ?それとも普通の?」と確認されることも多いのですが、生搾りのジュースが人気で、2017年のモスクワ生活時もスーパーや空港などで生搾りジュースの自販機をよく利用していました。
観光地で人気!記念コインの自販機
最近の自動販売機では、液晶画面でコインを作るもの。
△モスクワ・シティの展望台では、記念コインを作る自動販売機。お金を入れたらまずは、コインの片面に描かれるお好みのモスクワの景色を選びます。もちろんモスクワ・シティを選択し次へ。つぎにマグネットのコイン台紙を選びます。ロシア国旗カラーの宇宙飛行士ユーリー・ガガーリン柄を選択。コインには自筆サインなどお絵描きもできました。
△コイン完成までは、なんともぐらたたきで遊べるサービス!!ここも盛り上がります。
△完成したのがこちら!ガガーリンの顔部分をあけて、なかに記念コインをいれます。
ロボットが活躍する最新の自販機
△ザリャージエ公園では、ロボットが作ってくれるコーヒー自動販売機
関連ブログ☆【モスクワ通信】現在進行形のモスクワ観光スポット!ザリャージエ
△ショッピングモールのなかには、おしゃべりロボットが作ってくれるアイスクリーム!アヴィアパルクの最上階、キッザニアの目の前にあるため、「こんにちは!アイスはいかが?」の声に誘われていつも子どもたちに囲まれています。
△お金を入れると自動的にロボットアームが動きだして、カップにアイスを入れてくれます。
旅先で出会う自販機は、単なる便利な機械ではなく、その国の文化や暮らしを映す“小さなショーケース”のような存在です。
次回モスクワを訪れたら、キャビアや宇宙食から炭酸水マシンまで、ぜひ“自販機ウォッチング”を旅の楽しみのひとつに加えてみてください。そして面白い自販機を見つけたら、ぜひ教えてくださいね!