寒冷なロシアの冬、ひときわ鮮やかに存在感を放つ「プラトーク(платок)」。
ロシア語で「スカーフ」や「ショール」を意味しますが、単なる防寒具ではなく、長い歴史のなかで培われたロシア文化の象徴的なモチーフのひとつで、ロシアの人々の生活や心に寄り添う大切な存在です。
今回のブログでは、ロシアのプラトークの歴史や魅力、そしてその一大生産地であるパヴロフスキー・ポサードの工場と博物館をご案内しながら、奥深いプラトークの魅力を探ります。
プラトークの本場パヴロフスキー・ポサード
ロシアの首都モスクワから東に約70km、パヴロフスキー・ポサードというプラトークの一大生産地があります。
△市の入り口もプラトーク
「パヴロフスキー・ポサード・ショール工場」は、1795年から今日まで、職人たちが伝統技術を守りながらも現代的なデザインを取り入れたプラトークを生み出しています。
プラトークの鮮やかな模様は、一枚ずつ手作業でプリントされています。その手法は「木版印刷」に由来し、今でも職人たちの熟練した技術によって、複雑な模様が正確に再現されています。
プラトークの作り方とその芸術性
プラトークの製作には、非常に多くの手間と技巧が求められます。
まず、デザインを考案した後、そのデザインを布地に染め込む作業が行われます。
この過程には、 木版染め(木製の版に絵柄を刻み、染料を押し当てて布に転写する技法)やトレーシングペーパーを使って模様を移す技法が多く使われます。
実際に博物館では、古い木版やトレーシングペーパーの写真も展示されており、それらがどのようにショールに命を吹き込んでいるかを知ることができます。
デザインを精密にトレーシングペーパーに写し、さらにそれを布地にトレースしていきます。トレーシングペーパーを使うことで、デザインの一貫性を保ちながら、非常に細かいディテールを再現することができるそう。
ショールの模様に込められた繊細さや、制作にかけられた時間と努力が、このような道具や技法に凝縮されています。
印象的だったのは、1枚のプラトークに使用される色数の多さ!一つのデザインに30色以上を重ねることも珍しくなく、各色ごとに版を変えて印刷するため、非常に手間のかかる作業です。
△また、天然素材であるウールやシルクが主に使用され、触れるだけでその柔らかさと高級感が伝わってきます。メリノファインウールは、メリノ種からとれる羊毛で、ほかの羊毛に比べて繊維が細く、吸湿性と通気性に優れているので、サラッとした肌心地で夏でも快適に着用できるうえ、丈夫なのが特徴だそう。
△20世紀はじめ頃の工場周辺の様子や、
△職人たちが作業にあたる様子など、貴重な資料も展示されているほか、
△これまでのレジェンド職人たちの作品も紹介されています。
△パヴロポサードのショールには、作家の名前とタイトルがつけられているのも特徴で、お気に入りの作家の柄や色合いから世界観を感じられたり、ストーリーを想像して楽しむこともできます。
△たとえばタチヤナ・パヴロヴナさんのコーナーでは、経歴や受賞歴、そして代表作(「エレジー」や「ベルベット」「ベルベット・ナイト」)などを知ることができます。
△デザイン分野で傑出した作品を残したエレーナ・ゲルマノヴナさんは、モスクワ国立繊維アカデミー卒業後、勤務をはじめた初日から(!)、非対称などモダンなデザインを生み出していきました。代表作には、「春の息吹」や「ロマンチック」「雪の女王」などがあります。
ひとつひとつのプラトークには職人の技が光っていて、まさに「生きた芸術」を感じることができます。
後編では工場の外へ・・・パヴロフスキー・ポサードの街のショール博物館やプラトークのお店にもご案内します!