深まる秋は、深める読書はいかがでしょうか?
ロシア文化フェスティバルをさらに深くご堪能いただける本について、長塚英雄・日本組織委員会事務局長にお話を伺ってみました。
いちのへ そもそもこの本が誕生するきっかけはなんだったのでしょうか。
長塚 私は両親がサハリンのドリンスクに居住し兄姉がサハリンで生まれたという経緯もあり、1970年から日ロ交流史を追い続けてきました。2000年に「日本のなかのロシア研究会」を主宰し、2001年~2007年にかけて「日本のなかのロシア」をテーマとして、各地の郷土史研究家のお力をお借りして、四冊の『日本のなかのロシア』を東洋書店から発行していました。このシリーズを土台に18の興味深いテーマについて、日露の18人の先生方に寄稿していただこうと企画したのが、「ドラマチック・ロシア in Japan 文化と史跡の探訪」です。
「ドラマチック・ロシア in Japan 文化と史跡の探訪」(2010年刊行 生活ジャーナル社)
いちのへ 一番の見どころはどこにあるでしょうか。
長塚 やはり、知られざるドラマチックな交流にあるでしょう。たとえば、あの野口英世が、黄熱病研究のためのアフリカ渡航前に、ロシア人彫刻家カニョンコフに銅像を制作してもらったことはご存知でしたか?その妻のカニョンコワ夫人が、かつてアインシュタイン博士や歌手シャリャアピン、ピアニストのラフマニノフをも魅了したソ連のスパイだったことは?たとえば、あの帝国ホテルに先駆的なパンづくりを伝えたのが、ロマノフ王朝時代に宮廷で働いていたサゴヤンだということは?こんなふうに、それぞれのテーマには、深くドラマチックなストーリーが眠っているのです。
いちのへ “ロシア”というテーマで見つめてみると、日本列島が、そしていつも私たちが生活している場所が、また新しい魅力を持ちはじめるのですね。ほかにはどんなテーマがあるのでしょうか。
長塚 第一章は、沖縄・宮古島研究の先駆者となったロシア人ニコライ・ネフスキーについてなど「学術面から見た日本の中のロシア」。第二章は、関東大震災とロシアなど「社会面から見た日本の中のロシア」。第三章は、日本を“心の故郷”としていたトルストイの令嬢アレクサンドラについてなど「文学・芸術の中のロシア」。そして第四章は、黒船来航よりも114年も前の江戸時代中期に根組ノ浜に出現したロシア探検船についてや、1856年にロシア皇帝より江戸幕府に贈られたディアナ号大砲のその後の行方など「江戸・明治・大正時代の日ロ交流から」という構成になっています。
いちのへ 初めて知ることばかりです!
長塚 そうでしょう。学会レベルでも初めての論究もありますよ。巻末付録として日本におけるロシアン・ワールドをカラー写真で明記した日本地図があります。日本とロシアの交流の歴史はわずかに300年たらずであるにもかかわらず、日本列島に百数十か所も存在するロシアン・ワールド=文化と交流の史蹟をご覧いただけます。江戸後期からの、とくに明治・大正期からの日露関係、それも文化分野における足跡は、本当に日本のあちらこちらに刻まれています。これをみると、文明が南から北へ伝播してきたという偏見が打ち破られ、また、ロシア文化がいかに日本に強い影響を与えてきたかが浮き彫りになるでしょう。」
→「ドラマチック・ロシア in JAPAN Ⅱ」へつづく