イギリス滞在中、女性のキャリアデザインについて取材を受けたことがありました。40代をどう生きようかしら、ちょうどそんなふうに思っていたタイミングで、インタビュアーは素敵な人生の先輩でした。
目の前のことに懸命だった30代を過ぎて、40代、50代、60代・・・女性のライフデザイン、気になります。
思えば、年齢を重ねるごとに、女性は本当にそれぞれの形で人生を歩んでいきます。
妻になったり、嫁になったり、母になったり。仕事を続けたり、続けなかったり、家族が何人でどんな構成か・・・
選べる運命もあれば、選ばれた宿命もあって、はっき白黒分けられないほど皆それぞれのグラデーションで、まるで完成のない水墨画の筆を進めるように、形を変えながら年齢を重ねていきます。
年齢とともに背負う役割がどんどん増えていって、しかもそのどれもが、自分の名前で呼ばれることのない役割が多かったりもするもの。パートナーの苗字だったり、○○くんのおかあさん、だったり、おばさーん、だったり。
「何歳?」と聞かれて、自分の年齢を答えたら、「いやいや、息子さん!」と言われたときの気恥ずかしさ。「写真撮ろう」と言われて一緒に並ぼうとしたら、周りのママたちが子どもたちだけにカメラを向けていたときの気まずさ・・・!
日本を飛び出して、ロシアやイギリスで生活していると、大人も子どもも、息子の友達も、みんなが日常生活のなかで「Yuri」と名前で呼んでくれることの新鮮な驚きは、なんだかそれだけで、自分をみつけたような、あなたはここにいていいんだよと優しく言ってもらえているような、そんな気持ちになるものでした。
『彼女の家計簿』(光文社文庫)のなかで生きる女性たちの生き方が、あなたの名前を呼ぶように、ふと立ち止まっているあなたの孤独を救ってくれます。
「不惑(40にして惑わずという論語のことば)だというのに、まだまだ迷ってばかりで・・・」
そうこぼす私に、インタビュアーの女性がかけてくれた一言が素敵。
「不惑でなく、惑惑(ワクワク)でいきましょうか!」
原田ひ香さんの作品には、「母親ウエスタン」のロシア人女性エリナや「おっぱいマンション改修争議」のロシア通信社など、ロシアもときどき顔をだします。