ロシア伝統的な羊毛フェルト製ブーツ「ワーレンキ(варенки)」をご存知ですか?
極寒の冬を耐え抜くための必需品として長い歴史を持ち、マトリョーシカ人形や湯沸かし器のサモワールと同様に、しばしばロシアをイメージするアイコンのひとつにも挙げられます。
そんなワーレンキの魅力を探るべく、モスクワにある「ロシアのワーレンキ」博物館を訪れました。
△建物の一角が予約制のミュージアムになっており、ショップも併設されています。2001年冬のオープニングにはなんと、ワーレンキを履いた本物の熊が登場、民族舞踊グループと共にダンスを披露してメディアで話題になりました。
△通りの角にある博物館の入り口(左)とワーレンキのお店の入り口(右)
△ちいさなミュージアムですが、ワーレンキの歴史と魅力が詰まっています。
△親子ツアーに参加し、ワーレンキづくりの工程について学びます。みんな興味津々!
△1920年代の貴重なモノクロ写真で、昔のワーレンキの工場の様子を見ることもできました。この工場は、ニジニ・ノヴゴロドで1903年にミトロファン・スミルノフによって設立された「スミルノフと息子たちの蒸気フェルト履物工場」で、ソ連時代に国有化され、「ニジニ・ノヴゴロド第一国立フェルト履物工場」となりました。
△ワーレンキの原料となるのは、良質な羊の毛のみ!一般的に、女性用のワーレンキづくりには約1,500グラム、男性用には2,000グラム以上のウールが必要とされています。
△ワーレンキの起源については諸説ありますが、古く13世紀ごろまで遡るともいわれています。羊毛は、もともとは遊牧民の住居ゲルなどに使用されており、その後ロシア全土に広がっていきました。寒冷な気候の中で、足元を暖かく保つための実用的な履き物としてワーレンキは愛用されてきたのです。
△選別された羊毛を梳き、不純物を取り除くための櫛など伝統的なワーレンキ造りで用いられる実際の道具を手に取り、それぞれの使い方の説明を聞きます。
△昔ながらの製造工程で使用されるのは、フェルト化の工程の前に羊毛の絡まりを解いて、繊維を均等に並べる重要な役割を担っている機械。熟練の職人が手動でハンドルを回して作業していきます。
△大小さまざまなローラーがあり、羊毛が次第にほぐれながらシート状に広がっていきます。ローラーの表面には、金属の細かい針やブラシが付いていて、均一に整えるのに役立ちます。「手でさわってみてもいいですよ」に子どもたちは大喜び!
ぬるま湯を浸透させてフェルト化します。マットの上で湿った羊毛を圧縮しながら擦ったり転がしたりしていくと、羊毛の繊維同士が絡み合い、生地が収縮して、密度が高く丈夫になり、保温性にすぐれたブーツになります。このとき、適度な湿り気の調整に熟練の技が必要なのだそうです。
△布状になったフェルトで型紙を包むようにしてワーレンキの形を成型していきます。「つま先やかかとにウールを多く使用することで、強度と柔軟性が確保されます。縫い合わせる必要がないので針も糸も必要ありません。縫い目がない分とても気密性があり丈夫で長持ちします。」
△成形が完了した後、木型にはめたまま数日~1週間かけて自然乾燥させてさらに強度を高めます。「生地が縮んでこんなに小さくなるんですよ!そのため完成形を見越して、かなり大きく型を用意しておかなければなりません。」
△「スラブの生活」を可愛らしく再現したコーナー。ワーレンキとともに、昔から使われている道具を体験することができます。粉を挽いてペチカ(ロシア式の暖炉)でパンを焼き、水汲みに出かけてサモワール(ロシア式の湯沸器)でお湯を沸かしお茶を飲んだり、糸を紡いで機織りをしたり・・・
△時代が違えば、毎日こんなお手伝いが日課だったのかしら?
(左)水汲みをするための天秤棒。両側に木桶がついているのが一般的ですが、ここはワーレンキ博物館らしくワーレンキがついていました!これでもかなりの重さがあり、「実際は水の入った桶をぶらさげて家まで歩くなんて」と驚きます。
(右) 鋳鉄鍋をフォーク状の鉄の器具で持ち上げて、いかにこの時代の女性たちの家事が重労働だったかを想像してみます。「今は空っぽだけれど、このなかには熱々のキャベツスープがたっぷり入っていたの。気をつけて運ばなくちゃね!」
△揺りかごの上の赤ちゃん人形もちいさな可愛らしいワーレンキを履いていますね。
△ツアーの最後は、特大ワーレンキを履いて記念撮影!
羊毛の山から頑丈で温かなフェルトのブーツ「ワーレンキ」が誕生する過程や職人の技術に、ツアーに参加した親子全員が感嘆の声を上げていました。
(後編へつづく)