ひきつづき、ロシア文化フェスティバルをより深くご堪能いただく本について長塚英雄・日本組織委員会事務局長に伺います。現在準備中だという新刊についても、一足早く教えていただきました!
いちのへ テーマはいつもどのようにお探しになるんですか。
長塚 ロシア漂流民・日露戦争ロシア兵墓地・ハリストス正教会建築物・帝政ロシア遣日使節・ロ日関係偉人史蹟など、これまで132個ものテーマを探究・紹介してきました。しかし、驚くべきことに、日本の中のロシアに関するテーマは無尽蔵とも思えるほど次から次へとでてきます。私は古書収集も趣味のひとつなのですが、ロシア文化フェスティバルのイベントで日本各地へ出張する際に立ち寄った地元の古本屋で、思いがけなく興味深いテーマに出会うこともあるんですよ。
「ドラマチック・ロシア in Japan Ⅱ」(2012年刊行 生活ジャーナル社)
いちのへ 今年2012年には、またまた魅力的なテーマ満載の第2弾が刊行されましたね。
長塚 おかげさまでご好評をいただき、新たに24本のテーマが追究されることになりました。昨年の3・11大震災の直後、ロシアを含め各国救援隊が来日しました。日本のマスコミは一様に日ロ関係史上初の出来事として報じましたが、私はこれに違和感を覚えていました。関東大震災の際に全露国民的募金運動を行い救援船が日本に派遣されたにもかかわらず、日本当局が横浜港から追い返した経緯があったからです。このことから、今一度、当時のレーニン号事件に焦点を当てることの重要性を感じてテーマに選びました。また、現在こう着状態の日露両国関係の打開についても、大戦後1956年の日ソ国交回復の歴史的教訓を再検討すべき必要性を感じていました。当時、政府・政権党内情勢の不安定にもかかわらず、調印に踏み切らせた要因の一つには、民間のさまざまなバックアップがあったのです。そこで国交回復の舞台裏で活躍した人々についても取り上げることにしました。
いちのへ 「ロシア文化フェスティバル in Japan」とこの「ドラマチック・ロシア」シリーズ本が相乗効果をなして、過去から現在、そして未来へとつづく日本とロシアの交流を深化させているのですね。ほかにはどんなテーマがあるのでしょうか。
長塚 文化テーマでは、長崎のロシア人と島尾敏雄や、トルストイと昭和女子大学の関係、日本最初の遣魯伝習生である市川文吉、女優松井須磨子のウラジオストク公演、ボリショイサーカスと日本の半世紀の歴史など。ほかにも社会テーマでは、ニコライ堂・ボドウォーリエ教会の法的経緯について、外交テーマでは、はじめて一般に公にされるもうひとつの領土紛争?帝政ロシア長崎領事館問題や、ロシア外務省に勤務した日本人についてなど。すべての原稿に新しい発見があるはずですよ。
いちのへ 第3弾も期待できますね!
長塚 序文を書いてくださった河東哲夫先生が“若い世代へ向けた新しいシリーズの始まり”と紹介してくださいましたが、今後も執筆者の輪を広げながら継続した続編の企画をすすめていきたいと考えています。第三弾では、「日露の群像」ー日本とロシアの文化・相互理解に尽くした日本人とロシア人に焦点をあててまとめる予定です。両国関係史に登場するニコライ大主教、幕府・政府の最初の露語通訳・志賀浦太郎、イコン画家・山下りん、日本研究家・スパリヴィン、エリセーエフやネフスキー、岡田嘉子など幕末から明治・大正・昭和に生きてきた故人30氏の人物論を準備しています。二葉亭四迷や榎本武揚といった皆さんが文学史や日本史の教科書で名前を知っているような有名人だけでなく、多大な貢献をしているにもかかわらずこれまであまり取り上げられることの少なかった人々も発掘していきます。
いちのへ ソチ五輪が開催される2014年春に刊行予定とのこと、日本とロシアの間に、また新しい1ページが刻まれる日が今から待ち遠しいです!今日はありがとうございました。